ウシガエル急性下壁心筋梗塞モデルにおける心電図変化のメカニズム
要旨
急性心筋梗塞を発症早期に迅速に診断するためには,心電図による検査が最も有用である。急性下壁心筋梗塞の場合、特徴的なST間隔の上昇という所見に加え、対側の肢誘導では逆に、ST間隔が低下する“鏡像変化”が起きることが知られる。本研究では、ウシガエル心臓の前面および背側面に、熱傷(焼灼)による心筋傷害を誘発したところ、心電図の胸部誘導で、それぞれST間隔の上昇および低下が認められ、急性心筋梗塞に擬似する心電図変化および鏡像変化を再現することができた。さらに、ウシガエル心臓の下面に、同様の方法を用いて心筋傷害を誘発したところ、肢誘導のII, III, aVFにおけるST間隔の上昇と、対側のI, aVL誘導におけるST間隔の低下が認められ、急性下壁心筋梗塞に特徴的とされる心電図変化と鏡像変化とを再現することができた。心筋の焼灼モデルと同じように、実際の急性心筋梗塞の場合にも、傷害を受けた心筋側から正常の心筋側に向かい、拡張期に傷害電流が発生する。ST間隔が上昇または低下するメカニズムは、傷害電流の流れを捉える心電図の誘導の向きに応じて、心電図の基線が低下または上昇して見えるためであると考えられた。ウシガエルによる擬似病態モデルを通して、急性下壁心筋梗塞で起きる心電図変化とそのメカニズムを理解することで、急性期の医療・看護の現場における迅速な診断・治療にもつなげていくことができる。