マウス肝組織におけるL-ロイシン代謝体、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸によるタンパク質合成の促進効果

ラジオアイソトープ試験法による解析

  • 田邊 静香 福山大学 薬学部
  • 大久保 友貴
  • 藤井 朋保 福山大学 薬学部
  • 上敷領 淳 福山大学薬学部
  • 本屋敷 敏雄 福山大学薬学部
  • 森田 哲生 福山大学薬学部・大学院薬学研究科生化学教室
キーワード: β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸, ラジオアイソトープ試験法, タンパク質合成, 低タンパク血症, サルコペニア

要旨

β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)はヒトにとっての必須アミノ酸であるL-ロイシンの代謝中間体であり、その生理作用として筋肉におけるタンパク質の合成促進作用を有することが報告されている。最近、サルコペニアや褥瘡等の改善のために、HMBの筋タンパク質の合成促進作用に着目した医療への応用が図られている。しかし、HMBの生理作用の詳細は未だ不明な点が多く、種々の検討が進められている。そこで本研究では、筋肉以外の組織として、特に種々の栄養素の代謝の中心臓器である肝臓でのタンパク質合成能に対するHMBの効果について、L-[³H]ロイシン(Leu)を用いたラジオアイソトープアッセイによって解析した。マウスの肝臓を摘出し、その切片と[³H]LeuをHMB存在下温置したところ、肝タンパク質を含有するトリクロル酢酸(TCA)不溶性画分に取り込まれた放射活性は、HMBの濃度の増加に伴って上昇することが認められた。このHMBの効果はタンパク質生合成における翻訳段階を阻害するラパマイシン(Rap)の共存下によって減退した。さらにこのHMBによる肝タンパク質への[³H]Leuの取り込みに対する増強作用は、Rapと異なる翻訳段階を阻害するシクロヘキシミド(CHX)によっても著しく抑制された。すなわちこれらの結果から、HMBは筋肉のみならず、肝臓におけるタンパク質合成をも促進することが示され、このHMBの作用の発現にはRapやCHXに感受性のある翻訳過程の活性化が大きく関与していることが示唆された。また、HMBが肝タンパク質合成能の低下に伴う低タンパク血症の改善に有用性の高い一役を果たす可能性も考えられた。

出版済
2021-04-21
セクション
原著論文