創刊のことば(第1巻第1号(1942))より

(醫學と生物學 創刊号より原文のまま)

  • 医学と生物学 編集委員会

要旨

創刊のことば

 科學の振興がどんなに高く叫ばれても,そして実際どんなに深く究められても,その成果のすべてが具體的に記述されなければ,何の意味もなさない.またかかる科學的探究の成果がどんなに多く綴られても,それが発表される適切な機關がなければ,科學の振興は期し難い.
 例へば本邦醫事雑誌出版界の現状を見ると,學術的研究論文を掲載する雑誌の多くは各科の専門雑誌である.しかもそれらは著しい數に上がり,これに加へ論文の大多数が何れも長篇であるため,今日では,各科の最前線の知見に通暁することは事実上不可能である.抄録はその缺を幾分補ふにしても,自から趣を異にするところがある.かくて多くの好學の士は徒らに學に飢え,遂には究學,好學の心が枯死するに至る.一方研究者の側から見ると,各専門雑誌は長篇論文の集積のため,印刷発表の時期が遅延するのみならず,その頒布範囲も種々の制限を受けて,折角の成果も看過せられる懼れが少なくない.また醫學と極めて密接な關係にある生物學領域においても,多少事情の異なるものがあるが,學術論文の発表機關體制といふことに至っては,その缺は同じである.
 この弊を除くためには,すべての學徒がその成果を極めて速かに報告することが出来,また學徒はそれを簡便に讀み得て,以て相互の向上に資するやうな,綜合的中樞的機關を持つことが必要である.而してその機關が十分に機能を発揮するためには,簡にして要を得た論文が一時に多數収容されることが必要である.長篇の詳報は他日に譲り,とにかく限られた紙面の範囲で,報ずべきを速かに報じて,共に考え共に進まねばならない.要するに,短篇の学術論文を一時に掲載し得る速報雑誌の必要が痛感されるのである.
 歐米においては,夙にこの種の形式の雑誌が存在し,その全機能を発揮して,大いに學界に貢献しつつある.この事情に鑑み,本邦の事情に想ひ及んで,本會はここにかかる機能を有する雑誌を,醫學と生物學との領域のために刊行提供し,本邦斯界の進歩向上に寄與せんとするものである.

       昭和17年1月
醫學生物學速報會

出版済
2018-09-14
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